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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)12064号 判決 1995年6月30日

原告

中網静男

ほか三名

被告

小松秀樹

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告中網静男に対して、金三三万〇七六〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは連帯して、原告中網昇に対して、金三四万六三二〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは連帯して、原告岸本東紀男に対して、金三四万〇六四〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは連帯して、原告有限会社昌永に対して、金一三六万六四一五円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告ら、その余を被告らの負担とする。

七  この判決は、第一ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは連帯して、原告中網静男に対して、金一一四九万一七一〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは連帯して、原告中網昇に対して、金六五二万〇二〇〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは連帯して、原告岸本東紀男に対して、金一四九万五一四〇円及びこれに対する被告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは連帯して、原告有限会社昌永に対して、金三一二万七六五五円及びこれに対する彼告小松秀樹については平成五年一二月二二日から、被告赤井健夫については平成五年一二月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の慨要

普通乗用自動車に、後方の普通乗用自動車が追突し、その後に、その後方の普通乗用自動車が追突した事故で、先頭の車両の運転者及び同乗者が、傷害を負つたとして自賠法三条に基づいて、その所有者がその車両が破損したとして民法七〇九条によつて、後方の二車両の運転者兼所有者に損害賠償を請求した事案である。

一  当事者間に争いがない事実等(証拠による事実は証拠摘示する。)及びそれに基づく判断

1  本件事故の発生

日時 平成五年四月一七日午後六時五五分頃

場所 大阪市中央区松屋町府道高速大阪池田線環状六・一キロポスト先

関係車両 被告小松運転の普通乗用自動車(小松車両)

被告赤井運転の普通乗用自動車(赤井車両)

原告静男運転の普通乗用自動車(原告車両)、原告昇、原告岸本同乗

態様 原告車両後部に、小松車両が追突し、小松車両に赤井車両が追突したもの

2  被告らの責任

被告小松、被告赤井は、それぞれ小松車両、赤井車両を保有しており、本件事故の際、その運行の用に供していたから、自賠法三条の責任があり、前方不注視等の過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条の責任がある。

二  争点

1  原告静男、原告昇、原告岸本の傷害の有無、程度、相当治療期間、相当休業期間、後遺障害の有無

(一) 原告静男、原告昇、原告岸本主張

(1) 原告静男

本件事故により、頸部捻挫の傷害を負い、平成五年四月一九日から同年六月四日まで田村外科に通院(実通院日数二一日)し、同月八日から同年一〇月二九日まで堺山口病院に通院(実通院日数七三日)した。

実通院日数に相当する九四日は稼働できず、その余の日も思うように稼働できないので、実通院日数分の収入を得ていない。

右側後頭部しびれ感、知覚障害、頸椎運動障害、右肩関節痛、右手指痺れ感の後遺障害がある。

(2) 原告昇

本件事故により、頸部捻挫の傷害を負い、平成五年四月一九日から同年六月四日まで田村外科に通院(実通院日数二八日)し、同月七日から同年一一月五日まで堺山口病院に通院(実通院日数四四日)した。

実通院日数に相当する七三日は稼働できず、収入を得ていない。

頸部重圧感等の後遺障害がある。

(3) 原告岸本

本件事故により、頸部捻挫、腰部捻挫の傷害を負い、平成五年四月一九日から同六月四日まで田村外科に通院(実通院日数二五日)し、平成五年六月七日から同年七月一三日まで堺山口病院に通院(実通院日数六日)した。

実通院日数に相当する三一日は稼働できず、収入を得ていない。

(二) 被告ら主張

原告静男、原告昇、原告岸本の傷害は知らず、通院の必要性、相当性、因果関係を争い、休業損害は争う。仮に、傷害が認められるとしても、田村外科における治療の範囲で必要かつ相当と認めるべきである。また、休業による損害は発生していない。

2  原告静男、原告昇、原告岸本の損害

(一) 原告静男、原告昇、原告岸本主張

(1) 原告静男

治療費三一万三七一〇円(田村外科八万〇七六〇円、堺山口病院二三万二九五〇円)、休業損害三〇〇万八〇〇〇円(80万円÷25×94)、通院慰謝料一一五万円、後遺障害逸失利益五二七万円(80万円×12×0.05×10.981、千円未満切り捨て)、後遺障害慰謝料七五万円、弁護士費用一〇〇万円

(2) 原告昇

治療費一九万六二〇〇円(田村外科九万六三二〇円、堺山口病院九万九八八〇円)、休業損害八七万六〇〇〇円(30万円÷25×73)、通院慰謝料一一五万円、後遺障害逸失利益二九四万八〇〇〇円(30万円×12×0.05×16.379)、後遺障害慰謝料七五万円、弁護士費用六〇万円

(3) 原告岸本

治療費一一万四一四〇円(田村外科九万〇六四〇円、堺山口病院二万三五〇〇円)、休業損害六五万一〇〇〇円(630万円÷300×31)、通院慰謝料六〇万円、弁護士費用一三万円

(二) 被告ら主張

争う。

せいぜい認められるのは、いずれの原告も田村外科の治療費とそこでの通院に対応する慰謝料である。

3  原告車両の損害

(一) 原告会社主張

修理費一二八万円、代車料六五万七六五五円、評価損一〇四万円、弁護士費用一五万円

(二) 被告ら主張

争う。修理費は原告会社提出の書類では裏付に足りず、代車料はせいぜ五四万円(1万8000円×30)であつて、評価損は、内部や骨格に損傷が発生していないから認められない。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

前記事故態様に、甲二五、乙六、七の各1、2、原告昇、原告岸本及び被告小松各本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。

原告静男は、原告車両を運転して、前記認定の日時楊所で走行していた。

被告小松は、小松車両を運転して、時速約五〇ないし六〇キロメートルで走行していたところ、前方を走行する車両が進路変更をするのに気を取られ、前方不注視となり、前方一〇・六メートルに接近して初めて原告車両を認め、ブレーキをかけたものの及ばず、原告車両後部に衝突し、その付近で停止した。

被告赤井は、赤井車両を運転して、走行していたところ、前方二五・五メートルで小松車両を認めたが、そのまま走行していたところ、前方一二・三メートルの地点で、小松車両が停止しているのを認め、危険を感じ、ブレーキをかけたものの及ばず、小松車両に追突し、その勢いで、小松車両は再び、原告車両に玉突追突した。

最終的に、小松車両は、原告車両の後部の下部に潜りこむような形で停車した。

二  交渉経過

甲二五、二六の1ないし4、乙一の1ないし5、二、三、四の1、2、五、乙一七、一八の1ないし5、原告昇、原告岸本及び被告小松各本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。

原告静男、原告昇及び原告岸本は、本件事故翌日、被告らを呼び、本件事故の損害に関し、数時間交渉したが、その際、原告らは、被告らに対し、賠償額は、被告ら加入の責任保険から支払われるものに限定されるべきでないと述べていた。

原告静男は、平成五年四月三〇日、被告小松の勤務する幸福銀行に三か月満期の一億円の自由金利型定期預金を、同日二〇〇万円、同年五月六日一五〇〇万円、同月七日三〇〇〇万円のそれぞれ普通預金をし、同年五月一二日には四七〇〇万円の普通預金を下ろした。そのことを受けて、被告小松の上司は、被告小松に対して、本件事故の賠償交渉の際に、原告静男の意に添うようにと述べていた。

三  原告静男、原告昇及び原告岸本の治療及び症状の経過

1  原告静男

甲二の1、2、三の1ないし3、四、五の各1、2、六の1ないし4、二五、二六の1、乙一〇、一三、一四の各1、2によると、以下の事実が認められる。

原告静男(昭和一五年一一月一八日生、本件事故当時五二歳、男性、原告会社代表者)は、本件事故の翌日である平成五年四月一八日から頸がだるくなつたと訴えて、翌一九日、田村外科に通院したが、頸部の腫れはなく、レントゲン検査では異常がなく、可動範囲も制限されておらず、頸部捻挫で加療七日間を要すとの診断を受け、翌二〇日、頭がぼーつとする他、頭痛や吐き気があると訴え、内服薬、湿布薬の投与、牽引等の治療を受け、経過観察を受け、同年六月四日まで通院(実通院日数二一日)した。

平成五年六月八日、堺山口病院に転院し、頸部右側から肩にかけての痛み、右肘運動痛を訴え、当初、局所注射を受け、その後、消炎鎮痛剤投与、理学療法(マイクロ)の治療を受けたが、医師の判断では、同年八月頃から症状は改善傾向にあり、同年九月には症状は固定化しているとされたが、同年一〇月二九日まで通院(実通院日数七三日)した。同日の後遺障害診断書作成時に訴えた症状は、右後頭部痺れ感、知覚障害、頸椎運動障害、右肩関節痛、右手指の痺れ感であつて、握力は左三九キログラム、右一五キログラムという結果であつた。

田村外科の担当医である田村医師は、平成五年九月九日に、原告静男の症状の訴えは長く、整合せず、既によくなつており、後遺障害もないと判断していた。

また、堺山口病院の担当医である馬渕医師は、平成五年九月二一日に、右頸部後頭部の痺れ感が残存しているが、事故後五か月間治療効果が少なかつた理由は分からず、同月には症状固定見込みで、後遺障害はない見込であり、同病院を受診した時点で、就労に支障はないと判断していた。

原告静男は、本件事故翌日から、就労を開始していた。

2  原告昇

甲七の1、2、八の1ないし3、九、一〇の各1、2、一一の1ないし4、乙一一、一三、一四の各1、2、原告昇本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。

原告昇(昭和二七年一月一九日生、本件事故当時四一歳、男性、会社員)は、本件事故の翌々日である平成五年四月一九日、頸部後頭部が重いこと、右上肢の違和感を訴えて、田村外科に通院したが、頸部の腫れはなく、レントゲン上も異常がなく、可動範囲も制限されていなかつたが、頸部捻挫で加療一〇日間を要すとの診断を受け、内服薬の投与、牽引の治療を受け、経過観察を受け、同年六月四日まで通院(実通院日数二八日)した。

平成五年六月七日、堺山口病院に転院し、項から右肩が雨の日に重いと訴えたが、客観的には異常がないと判断され、後に、右肘の運動痛を訴えたこともあつたが、消炎鎮痛剤投与、理学療法(マイクロ)の治療を受け、医師の判断では、同年九月には症状は固定化しているとされたが、同年一〇月三〇日まで通院(実通院日数四四日)した。同日の後遺障害診断書作成時に訴えた症状は、頸部重圧感、時々の左前腕違和感であつて、握力は左三四キログラム、右三六キログラムという結果であつた。

原告昇は、兄である原告静男の経営する原告会社で管理に従事していたが、本件事故による傷害に基づく症状によつて休業を余儀なくされたことはなく、通院による早退等によつて、給与が減額されたことはなかつた。

田村外科の担当医である田村医師は、平成五年九月九日に、原告昇の右上肢の痺れ等症状が長く、整合せず、一か月余りの治療でかなり良くなつており、後遺障害もないと判断していた。

また、堺山口病院の担当医である馬渕医師は、平成五年九月二一日に、時々、頸部が重くなる症状が残存しているが、事故後五か月間治療効果が少なかつた理由は分からず、同月には症状固定見込みで、後遺障害はない見込みであり、同病院を受診した時点で、就労に支障はないと判断していた。

3  原告岸本

甲一二の1、2、一三の1ないし4、乙一二ないし一四の各1、2、原告岸本本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。

原告岸本(昭和二〇年八月二一日生、本件事故当時四七歳、男性、会社員)は、仰向けとなつた際の頸部痛、目のかすみを訴えて、本件事故の翌々日である平成五年四月一九日、田村外科に通院したが、レントゲン上顕著な所見はなく、可動範囲も正常で、頸部捻挫で加療七日間を要すとの診断を受け、翌二〇日頸の腫れもなく、その後腰痛も訴えたが、同月二二日ラセーグ徴候は認められず、内服薬、湿布薬の投与、牽引等の治療を受け、経過観察を受け、同年六月四日まで通院(実通院日数二五日)した。

平成五年六月七日、堺山口病院に転院し、軽度の頸部痛、左後方を見ると意識が遠のくと訴えて、当初頸部局部注射、その後、消炎鎮痛剤投与、理学療法(マイクロ)の治療を継続し、同年八月一八日まで通院(実通院日数七日)した。同日の後遺障害診断書作成時に訴えた症状は、腰痛、頸椎運動時、特に、後を向いた際、気分が悪くなること、腰部右運動痛、特に寒くなるとひどいということを訴え、レントゲンによると、頸椎腰推に加齢による軽度の変形が認められ、握力は左四〇キログラム、右四七キログラムという結果で、根性症状はないとされた。

原告岸本は、本件事故当時営業を担当していたが、本件事故による傷害によつて就労ができなかつたことはなく、通院も、営業の合間に行つたので、それによつて、減収を来したことはなかつた。

田村外科の担当医である田村医師は、平成五年九月九日に、後遺障害はないと判断していた。

堺山口病院の担当医である馬渕医師は、同月二一日に、既に治癒しており、同病院を受診した際の同年六月七日には就労が可能であつたと判断していた。

四  原告静男、原告昇、原告岸本の傷害の有無、程度、相当治療期間、相当休業期間、後遺障害の有無(争点1)

1  原告静男

前記認定の本件事故の態様、前記認定の症状の経過、特に、通院を開始したのが本件事故の翌々日で、原告昇、原告岸本と同一であること、他覚的所見がないこと、当初の訴えも比較的軽微で、担当医も加療一週間の頸部捻挫と判断していたこと、現実に休業したとは認められないこと、堺山口病院で訴えた症状は、田村外科ではなかつたものであること、それらの症状に基づく前記の医師の判断、転院時期、転院先が、原告昇、原告岸本と一致していること、弁論の全趣旨からすると、原告静男は、本件事故によつて、頸部捻挫の傷害を負つたが、それに対する相当治療期間は、田村外科に最後に通院した平成五年六月四日までであつて、体業は要せず、後遺障害と評価すべきほどの症状はなかつたと認められる。

2  原告昇

前記認定の本件事故の態様、前記認定の症状の経過、特に、通院を開始したのが本件事故の翌々日で、原告静男、原告岸本と同一であること、他覚的所見がないこと、当初の訴えも軽微で、担当医も加療一〇日間の頸部捻挫と判断していたこと、現実に休業していないこと、それらの症状に基づく前記の医師の判断、転院時期、転院先が原告静男、原告岸本と一致していることからすると、原告昇は、本件事故によつて、頸部捻挫の傷害を負つたが、それに対する相当治療期間は、田村外科に最後に通院した平成五年六月四日までであつて、休業は要せず、後遺障害と評価すべきほどの症状はなかつたと認められる。

3  原告岸本

前記認定の本件事故の態様、前記認定の症状の経過、特に、通院を開始したのが本件事故の翌々日で、原告静男、原告昇と同一であること、他覚的所見がないこと、当初の訴えも軽微で、担当医も加療一週間の頸部捻挫と判断していたこと、現実に休業していないこと、それらの症状に基づく前記の医師の判断、転院時期、転院先が原告静男、原告昇と一致していることからすると、原告岸本は、本件事故によつて、腰部捻挫、頸部捻挫の傷害を負つたが、それに対する相当治療期間は、田村外科に最後に通院した平成五年六月四日までであつて、休業は要しなかつたと認められる。

五  原告静男、原告昇、原告岸本の各損害(争点2)

1  原告静男

(一) 治療費 八万〇七六〇円

前記のとおり、田村外科への通院の限度で本件事故と因果関係が認められるので、甲二の2によると、右のとおり認められる。

(二) 通院慰藉料 二〇万円

前記の症状固定日までの通院慰謝料としては、右額をもつて相当と認める。

(三) 休業損害、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料 否定

四1記載のとおり、これらの損害は認められない。

(四) 弁護士費用 五万円

本件訴訟の経過、認容額に照らすと、右額をもつて相当と認める。

2  原告昇

(一) 治療費 九万六三二〇円

前記のとおり、田村外科への通院の限度で本件事故と因果関係が認められるので、甲七の2によると、右のとおり認められる。

(二) 通院慰藉料 二〇万円

前記の症状固定日までの通院慰謝料としては、右額をもつて相当と認める。

(三) 休業損害、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料 否定

四2記載のとおり、これらの損害は認められない。

(四) 弁護士費用 五万円

本件訴訟の経過、認容額に照らすと、右額をもつて相当と認める。

3  原告岸本

(一) 治療費 九万〇六四〇円

前記のとおり、田村外科への通院の限度で本件事故と因果関係が認められるので、甲一二の2によると、右のとおり認められる。

(二) 通院慰藉料 二〇万円

前記の症状固定日までの通院慰謝料としては、右額をもつて相当と認める。

(三) 休業損害 否定

四3記載のとおり、これらの損害は認められない。

(四) 弁護士費用 五万円

本件訴訟の経過、認容額に照らすと、右額をもつて相当と認める。

六  原告会社の損害、即ち、原告車両の損害(争点3)

1  修理代 五〇万八七六〇円

原告会社は、本件事故によつて、原告車両が別紙1(甲一七の1)記載の修理を要する損傷を負い、そのための修理費として一二八万円要したと主張し、甲一七の1、2、証人土屋の証言中には、右主張に沿う部分があるものの、破損箇所とする後部を撮影した写真(検甲一ないし四)ではそれらの損傷を裏付けるに足りないこと、土屋は、原告車両を修理した三晃自動車株式会社(三晃)の総務部長で、事務系統の仕事に従事しており、車両の修理、その際の部品や工賃価格に詳しくなく、原告車両の修理を担当した者ではないこと、原告車両の損傷の具体的記億に乏しいことからして、右証言によつても、甲一七の1、2の作成過程及びその内容の信用性が明確となつていないので、これらの証拠によつても、原告会社の右主張を認めるに足りない。

したがつて、関係証拠を総合して、原告会社の右主張のうち、本件事故による損傷がどの部分かを検討する。

甲一七の1、2、二五、検甲一ないし四、乙一の1、5、二、一五、一六、検乙一の1ないし4、検乙二の1ないし11、証人土屋及び証人冨田の各証言によると、本件事故によつて、原告車両に追突した小松車両(いすずジエミニ)はフロアーパンが座屈損傷し、左右リアーフエンダー、前部バンパー、左右フエンダーも損傷して、八〇万五五七三円の修理費を要したこと、原告静男は、本件事故日、原告車両を三晃に持込み、修理を依頼したが、その際、土屋に、加害者は保険に加入していない旨述べたこと、その後、三晃は、別紙1の見積書の他、修理費用一二八万円の領収書を作成したこと、土屋が破損箇所について撮影した写真(検甲一ないし四)では、リアバンパーが圧傷したこと、エンドパネルの下部が損傷したことは認められるものの、他に、明白な破損箇所は認められないこと、その写真に基づいて被告小松加入の損害保険会社のアジヤスターである冨田の作成した修理見積書は別紙2(乙一五)であつて、他に、リアの損傷中、リアバンパー関連費用、リアエンドパネル関連のうち額が特定できる損傷に対する費用、トランク関連費用、リアマフラー関連費用の別紙1○記載の損傷は、本件事故による可能性はあるが、リアウインド関連費用、センターマフラー関連費用、フロントマフラー関連費用等の別紙1×記載の損傷はありえず、トランクフードの関連費用、マフラー関係の作業費用、塗装作業費用等の別紙1△記載の損傷については、すべて本件事故によるものとはいえないと判断していることが認められる。

これらの事実からすると、別紙1のうち、証人冨田が可能性を認めるリヤ関連の損傷(別紙1○記載部分)についての合計額四五万〇七六〇円は、本件事故による損害と認められる。

リヤウインドガラス関係費用(別紙1×<1>)は、甲二五には、本件事故時、小松車両の部品がその部分に当たつて損傷した旨の部分があり、原告岸本も、その本人尋問において、同様な供述をするものの、証人冨田の証言によつて認められる、小松車両の損傷状況から、そのような部品は想定しにくいこと、リアウインドを撮影した検甲四によつても損傷は明白には認められないことに照らし、本件事故によつて、損傷したと認めるに足りない。

センターマフラー、フロントマフラー及びエンジンミツシヨン関係(別紙1×<2>部分)は、前記の本件事故の態様からすると、小松車両が原告車両の下部にやや潜り込んだ形となつたこと、リアマフラー、リアエンドパネルの下部が損傷していることからは、リアマフラーの下部から、ある程度前方に衝撃が伝わる可能性は否定できないが、検甲一ないし三によつて認められるリアエンドパネルの損傷の程度がそれほど重大なものではないことも合わせ考えると、本件事故によつて、損傷したとまでは推認できない。

リアマフラー、センターマフラー、フロントマフラー関係の作業費用(別紙1△<1>)合計二万二〇〇〇円に関しては、前記のとおり、リアマフラー関連費用の限度で本件事故による損傷に関するものと認められるところ、その額は、その三分の一程度の八〇〇〇円と推認するのが相当である。リアエンドパネル塗装、左右クオーターパネル塗装関連費用(別紙1△<2>)合計一五万円については、別紙1にはクオーターパネルの鈑金の記載がないので記載内容が一貫していないこと、前記の本件事故の態様からは、小松車両は原告車両の下側に潜り込んだ形となつたことからすると、リアエンドパネル塗装の限度で本件事故による損傷に関するものと認められるところ、その額は、乙一五記載の塗装費用も考慮に入れると、五万円が相当である。

トランクフード関連費用(別紙1△<3>)は、リア上部であつて、前記のとおり、クオーターパネルに関して、脱着以外は認められないことからして、本件事故による損傷があつたと認めるに足りない。

したがつて、修理費の合計額は、右のとおりとなる。

2  代車料 代車料六五万七六五五円

甲一八の1ないし4、一九、二五、証人土屋及び証人冨田の各証言によると、原告会社は、その代表者である原告が営業に用いるため、本件事故に関する代車として一日当たり二万円でクライスラーを三〇日間、一日当たり五五〇〇円でテルスターを七日間を借り、消費税を合せて右額を支払つたこと、期間が三七日と比較的長かつたのは部品待ちのためであつたこと、原告車両はベンツであつて、前記認定程度の損傷でも、部品の入荷にその程度要するのはやむを得ないと推認できること、国産の高級車を借入れた場合は、一日当たり一万八〇〇〇円は要するものであることが認められるところ、これらの事実からすると、原告会社の借入れた期間は相当であり、単価も不相当とまでは言えないから、原告会社主張の右額をもつて、相当と認める。

3  評価損 一〇万円

甲二〇、証人冨田の証言によると、原告車両は昭和六〇年型のベンツ二八〇CEクーペで、外国製の高級車であつて、その当時の平均販売価格は二六〇万円であつたこと、しかし、前記認定からすると、本件事故による損傷は原告車両のフレームやエンジン関係には影響を与えたとは認められないことからすると、評価損は、前記の認定しうる修理費の二割程度である右額をもつて相当と認める。

4  弁護士費用 一〇万円

本件訴訟の経過、認容額からして、右額をもつて相当と認める。

七  結語

よつて、原告静男の請求は三三万〇七六〇円、原告昇の請求は三四万六三二〇円、原告岸本の請求は三四万〇六四〇円、原告会社の請求は一三六万六四一五円及びそれぞれに対して、不法行為の日の後である、各被告ごとに主文記載の起算日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金を、被告らに対して連帯して支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

〔別紙1・2 略〕

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